熱帯夜、君と出会う

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「風の音だろうさ。私は、もう随分と昔……いや、君くらいの歳の頃から山に入り浸っていてな。暇さえあればしょっちゅう遊びに来たんだよ。そうしたら、噂のおばけと友達になってしまってね」 「さっきはおばけのこと知らない風だった」 「他にもいるのかと思ってね」 「お兄さんはおばけと友達なんですか?」 「……あぁ、そうだよ。付き合ってみると、悪いやつじゃあないよ。けれど人間達はずっと恐れているから、おばけのことなんて怖いものと決めつけて近付こうとしないのさ」  おーい、おーい、と子供のことを探す声が微かに聞こえて来た。遠くの方で明かりがちらちら動いている。 「やあ、あともう少しだよ」 「本当?」 「大人達の声が聞こえるし、あの光は懐中電灯だろうな」 「何も聞こえないし見えないなぁ」 「山で遊んでいたら耳も目も良くなったんだ」  子供を連れて、下る。下る。下る。下る。どんどん下って行く。こんなに下まで行くのはいつ振りだろう。  ようやく彼にも大人達の存在が認識できたようだった。少しだけ、歩みが速くなる。  ほら、家々が見えて来たぞ。
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