熱帯夜、君と出会う

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「ここまで来ればもういいだろう。『おーい』と呼ぶ声に君が答えてやれば、向こうも君に気が付く」 「いいお兄さんに会ったって、みんなに言わないと」 「いいや、私はもう引き返すよ」  子供は小首を傾げる。 「引き返す? お兄さんは、この村の人じゃないんですか?」 「おばけとね、この後約束をしているんだよ。終わったらちゃんと帰るから大丈夫」 「そうなの。気を付けてね。それじゃあね、お兄さん。ありがとう」  手を振って駆け出そうとした子供が、振り向く。 「ぼくもおばけと仲良くなれるかな」 「……なれるとも。けれど、もう夜の山に入ってはいけないよ。おばけが怖くなくても、危ないものがたくさんだから。おばけは昼間もいるから、安全な時間に安全な範囲で遊びなさい。きっと君に気が付いてくれるし、こっそり見守ってくれるから」 「そうかなぁ。そうだといいな」  じゃあね、お兄さん。と改めて言って子供は大人達の方へ駆けて行った。 「おーい、おーい。ぼくはここだよー」  大人達が彼に気が付き、寄って来る。  もう大丈夫だろう。私の役目はここまでだ。
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