一夜の夏休み

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 夏の夜は長く、人生も長い。  うなだるような暑さを忘れられるイベントが噂になっていた。 『残りの人生の一夜に圧縮して体験できるサービス』  ――最初に聞いたときは、ろくに興味もわかなかった。できるはずがない。そう思っていたが、どうやら体験者の話を聞いている限り、本物らしい。  受付でたいそうな書類にいくつもサインを書かされた。  最新の技術、危険が伴う。そんな文字が目に入ったものの、自分以外にも参加者がたくさんいるのだから特に読むこともせず名前を書いていった。 「ああ、やっぱりこういうのだよな」  人間が一人、横になってそのまますっぽりと覆われるような機械がいくつも並んでいた。  その内の一つに、案内されて寝かされる。 「腕と足、拘束されるの?」 「暴れて機械を損傷させてしまう方もいますので」 「……へぇ」  そういうものなのだろう、と言われるがままになる。  やがて装置が閉じられ、完全に密閉された状態となった。これから映像が頭に流れて込んでくるのだろうか。  機械が唸りだして、音楽が流れてきた。  そして、熱い。  機械からの排熱か? 故障じゃないかと思うくらい熱い。  こんな状態で、集中できるのか。残りの人生をバーチャル体験するんだよな?  汗が全身をびちゃびちゃにする。熱い。  出してくれ――と叫ぶが、声はせまい空間を跳ね返るだけだ。熱い熱い。堪らず暴れてしまうが、手足の拘束が固く、ぴくりともしない。  熱い、熱い。  ――そのまま、一夜にして、残りの人生を過ごすことになった。
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