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「アホかっ!どんな猟奇的な事件を想定しているんだよ!縁起でもない!!」
俺は思わず彼女に怒鳴った。
大切な彼女の身体がどこかの誰かにバラバラに切り刻まれている、なんて考えただけで恐怖と怒りが襲ってくる。
「もしよ、もし。備えあれば憂なしってさ。私じゃ背後は見えないから!ほら、私の背中のホクロとか傷跡とかをこの絵に描き足して!」
大雑把ではあるが、女性の背面の全身像を描いたページを俺に突きつける。
俺は渋々ペンと手帳を手に取るふりをしながらも、黙って真剣に描き映しだした。
「…約束だよ。私を早く全部見つけて、早くおうちに帰してね。違う人の身体を混ぜないでね」
背を向けたままの彼女の肩が小刻みに震えている気がして、そっと後ろから抱きしめた。
「全部見つけるよ。間違えない。約束するよ」
俺は彼女の唇にそっとキスをし、髪を撫でた。
そして手帳に髪質から足の小指の爪の形まで、彼女の全てを記録した。
――― 2年後にこの手帳が本当に役に立つ事になるなんて、この時は想像すらしていなかった。
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