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 ガラン、ガラン……ガラン  数メートル背後で鳴り響いた異音に、ビクリと肩が震え、立ち止まった。  市電の駅から交差点を4つ進んで、一度ずつ右左折すると、ビル間に細い横道がある。空店舗の多いテナントビルの裏口を結んでおり、建物上部に取り付けられた安っぽいネオンサインの光が溢れて、街灯もないのに仄かに明るい。この道を通るのは、アパートまで近道だから。バイトでくたびれた身体には、回り道する15分と抜け道の5分なら、後者を選ぶ。  この小路を見つけて半年になる。封鎖されないところを見ると、俺以外にも通行人がいるのかもしれないが、これまで他人に遭遇したことはない。一度だけ、ドブネズミらしき小さな影がすばしこく駆けていくのを見たくらいだ。  背後から誰か歩いて来ているのか――興味半分、恐怖半分。勇気を振り絞って、振り返る。 「……なんだ」  表通りを車が通り過ぎる。一瞬過ったヘッドライトの中に、人影はなく。壁際に身を寄せたところで、隠れられるほどの道幅もない。落胆したのか、安堵したのか。その両方が入り混じり、思わず呟いた。  空耳? それとも、ドブネズミが空き缶でも倒したのかも。  憶病風に吹かれたな。苦笑いして、俺は帰路を踏み出した。  ガラン……ガラ……ガラン  表通りの車の音に紛れもせず、耳障りな金属音がくっきりと際立った。  再び足を止め、振り返る。目を凝らしても、人影はない。  な、なんだよ?!  今日は8月14日。いくらお盆だからって、勘弁してくれ。  この道、出る道だったのか? だから、ほとんど人通りもなく……。  肌を掠める微風さえ、ジトリと生温く、嫌な汗を誘発する。  路地裏の小路は、残り半分くらいだ。こうなったら、一気に走るしかない。 「はぁ……」  無理矢理深呼吸して、駆け出した。パタパタと自分の足音が響き。  ガラ……ガラン……ガラ……ガラン  ビル間を異音が追いかけてくる。  ガラン……ガラ……ガラン  小路を抜けて、住宅街の少し広い道に出た。深夜12時が近いので人通りはないけれど、街灯があるのが心強い。 「ふっざけんな……出て来いっ!」  訳の分からないモノを、アパートまで連れて行きたくはない。街灯の下で立ち止まり、俺は暗がりに向かって叫んだ。
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