2/3
前へ
/3ページ
次へ
 30秒、1分、2分――3分。  乱れた呼吸が整うくらい待ったが、暗がりに蠢くモノはなく。 「なんなんだよ……」  大きく息をついて、踵を返しかけた時。  ガラ…… 「……は」  左足を動かした途端、例の異音が小さく聞こえた。動きを止めると、音も止む。 「なんだ、これっ」  よくよく見ると、左足のパンツの裾にキラリと光る細い糸が見える。  俺は、恐る恐る左足を引いてみる。  ガラン  やっぱりだ。この音は、俺の左足と連動している。いや、多分、この左足に絡みついた、おかしな糸と。  ガラン……ガラ……ガラン  街灯の明かりに照らしながら、細い半透明の糸を外しにかかる。動かす度に、数メートル向こうの暗がりで不快な音が鳴る。ヘンに引っ張ってパンツが破れても嫌だから、糸の端を探して外そうとするが、なかなか見つからない。しかも幾重にも絡みついていて、特に足首辺りに食い込んでいる。このままじゃパンツを脱ぐこともままならない。  仕方ない。パンツに絡まった糸は、アパートに帰ってからハサミで切るとして、はた迷惑な異音の元が外せないか試すことにした。こんな寝静まった住宅街の中を、ガラガラ響かせながら歩くのはごめんだ。  ガラ……ガラン……ガラ…… 「ええい、うるさい!」  そっと引いているのに、異音は遠慮がない。アスファルトの上を擦れるように音を立てる。  あの路地裏に入るまでは、音はしなかった。だとしたら、路地裏の入口付近で、うっかり糸を引っ掛けたのか? それにしても、ただ歩いていただけで、こんなにグルグルに絡むものだろうか。 「チクショウ。面倒くせぇ……」  作った輪を左手で握り、右手で糸をたぐり寄せながら、ひとり毒づかずにはいられない。ただでさえ、今夜は疲れているのに。交通整理の誘導員のバイトは、お盆で交通量も多く、渋滞続きで残業になった。立ちっぱなしで、足が棒になったというのに。  ガラン……ガラ……ガラ……  大きな音を響かせないように、そっとたぐり寄せてはいるが、なかなか異音の元は見えてこない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加