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30秒、1分、2分――3分。
乱れた呼吸が整うくらい待ったが、暗がりに蠢くモノはなく。
「なんなんだよ……」
大きく息をついて、踵を返しかけた時。
ガラ……
「……は」
左足を動かした途端、例の異音が小さく聞こえた。動きを止めると、音も止む。
「なんだ、これっ」
よくよく見ると、左足のパンツの裾にキラリと光る細い糸が見える。
俺は、恐る恐る左足を引いてみる。
ガラン
やっぱりだ。この音は、俺の左足と連動している。いや、多分、この左足に絡みついた、おかしな糸と。
ガラン……ガラ……ガラン
街灯の明かりに照らしながら、細い半透明の糸を外しにかかる。動かす度に、数メートル向こうの暗がりで不快な音が鳴る。ヘンに引っ張ってパンツが破れても嫌だから、糸の端を探して外そうとするが、なかなか見つからない。しかも幾重にも絡みついていて、特に足首辺りに食い込んでいる。このままじゃパンツを脱ぐこともままならない。
仕方ない。パンツに絡まった糸は、アパートに帰ってからハサミで切るとして、はた迷惑な異音の元が外せないか試すことにした。こんな寝静まった住宅街の中を、ガラガラ響かせながら歩くのはごめんだ。
ガラ……ガラン……ガラ……
「ええい、うるさい!」
そっと引いているのに、異音は遠慮がない。アスファルトの上を擦れるように音を立てる。
あの路地裏に入るまでは、音はしなかった。だとしたら、路地裏の入口付近で、うっかり糸を引っ掛けたのか? それにしても、ただ歩いていただけで、こんなにグルグルに絡むものだろうか。
「チクショウ。面倒くせぇ……」
作った輪を左手で握り、右手で糸をたぐり寄せながら、ひとり毒づかずにはいられない。ただでさえ、今夜は疲れているのに。交通整理の誘導員のバイトは、お盆で交通量も多く、渋滞続きで残業になった。立ちっぱなしで、足が棒になったというのに。
ガラン……ガラ……ガラ……
大きな音を響かせないように、そっとたぐり寄せてはいるが、なかなか異音の元は見えてこない。
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