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そう返ってきた方向に会釈をして、すぐにトキタ君の声を探し始めた。
「あ、向こうね……」
わずかに聞こえた声の方に歩いて行き「トキタ君。そろそろ行かないと、屋台で買う時間無くなっちゃうわ」と話しかける。しかし、返事は予期せぬものだった。
「ん……? 俺のこと?」
え……違う、トキタ君じゃない。
その声はトキタ君に似ているが、微妙に違っていた。人違いをしたと知った私の前で誰かが言う。
「あれ、リュウジそんな友達いたの?」
高飛車そうな女の声がした。
「いや、俺は知らないよ」
「あの……ごめんなさい、人違いでした」
いけない。早く来た方に戻らないと……と思い引き返そうとしたが、変に力が入り不意に足が攫われた。
「痛っ……!」
鼻緒が切れたのだろうとすぐに分かった。やっぱり履き慣れないものは履くべきじゃなかったかしら。
そして手をつき立ちあがろうとする私に、声がかけられた。
「あの、大丈夫? もしかして……目が見えないの?」
「大丈夫です……! 私は、平気ですから」
「何この子、ねえリュウジ行こ。平気だよどっかに保護者いるんでしょ。それよりもう時間ないよさっさと行かないと」
「え、ああ……そだな」
そして、その声たちはいなくなった。
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