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「困ったわね……転んだせいで方向が分からない。声ももう分からないわ……」  トキタ君かと思って歩いてきてしまったのがいけなかった。あそこから少し離れてしまってるし。 「あ、そうだわ。スマホーー」  合切袋の中を手探りで探す。スマホがあれば声で電話をかけられると思ったからだ。 「……あれ、どうして。嘘でしょ」  合切袋に入れていたはずのスマホは無かった。 「っもしかして、あのとき――」  心当たりはひとつだけ。  昨日の夜、トキタ君と電話して充電せずに寝てしまったから、ちゃんとしておかないとと思って部屋でギリギリまで繋げたまんまだった。  いま思えば、それを合切袋に入れたものと勘違いしてたんだわ……。 「うそ、どうしよ……これは最悪ね」  私は音楽とかラジオをわりと一日中スマホで聴いている。だからバッテリーの減りが早くて、寝る時に充電していなかったことでバッテリー切れになったことがあった。だから気をつけないと、なんて思っていたら……こんな凡ミスしてしまうなんて――  このあと結局、私はトキタ君を見つけることはできず。人通りがあると思しき道から少しそれたところで、かかしのように佇むことしかできなかった。
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