縁日の夜に

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縁日の夜に

 これは、僕が小学校低学年だった頃のお話です……。  当時、僕は夏休みになると、離れて暮らす父方の祖父母の家に決まって遊びに行っていました。  父の実家はまあ、地方にあるありふれた農村で、特に山深い人里離れた寒村というわけでもありませんでしたが、都会育ちの僕にとっては一面の田園風景や水遊びのできる綺麗な河川、カブトムシやクワガタの獲れる鬱蒼とした森など、そこにある何もかもが新鮮で、僕は田舎で過ごす夏休みを存分に満喫していました。  また、そうして毎日、外を駆け回って遊んでいると、いつしか親しくしてくれる地元の子の友達もできました。  どうやら近所の家の子らしく、名前はユメコちゃんといって、歳は僕より少し上の小学校高学年くらい。長い黒髪を三つ編みおさげにした可愛らしい少女です。  まあ、今思い出すと可愛らしいという印象ですが、当時の僕からすれば年上ということもあり、頼りになるお姉さんといった感じの遊び相手でした。  田舎の子のせいか? ちょっと服装が昭和な香りのするものというか、当時流行りのファッションではなく、そこもまた、彼女を子どもっぽく感じさせなかったのかもしれません。  さて、そんなある日のこと、毎年恒例である村のお寺の縁日が催されました。  縁日はお寺でやるお祭りみたいなもので、参道に出店も並びますし、夜には花火も上がって、神社のお祭りとほぼ変わりません。  当然、僕も楽しみにしていて、夜、浴衣に着替えると、両親とともにお寺へ出かけました。  街場では味わえない、真っ暗な街灯一つない田舎道を歩いてお寺にたどり着くと、この村にこんなにも人が住んでいたのかと驚くくらい、たくさんの村人達で賑わっていました。もちろん、僕のような小学生くらいの子ども達も大勢混ざっています。  その雑踏に溢れ返る宵闇の中、長い石段が本堂へと続く参道の両脇に、連なった提灯の明かりで浮かびあがる幻想的な出店の数々……わたあめに焼きイカ、お面に射的に金魚すくい。  僕は端から首を突っ込み、時に両親にせがんでは出店を順々に見て回りました。  しかし、そこは小さな村の縁日。それほど出店が多いわけでもなく、花火が上がるまでの間にちょっと時間ができてしまいました。  そこで、知り合いの村の人と談笑する両親の傍ら、手持ちぶさたでうろうろしていると、声をかけてくる者がいます。
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