縁日の夜に

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「こんばんわ」 「あ、ユメコちゃん!」  その声に振り返ると、それはユメコちゃんでした。  今夜はいつもの洋服姿ではなく、白に牡丹柄の浴衣を着ています。なんだかいつもより大人っぽく、子どもながらにも艶っぽく感じました。 「ねえ、花火始まるまで時間あるし、おもしろいとこ行ってみない?」  僕が退屈そうにしていたのを察してか、ニヤニヤ悪戯っぽく笑みを浮かべながら、開口一番、彼女はそう誘ってきます。 「え、おもしろいとこ! 行く! 行く!」  彼女にはいつもおもしろい遊びを教えてもらっていたので、僕は一も二もなく首を縦に振りました。 「じゃ、決まりだね。こっち! ついて来て!」 「あ! 待ってよ!」  手をパンと胸の前で打ち、踵を返して歩き出す彼女の後を、僕も慌てて追いかけました。  遮る人混みをすり抜けるようにして、早足で進むユメコちゃんはそのまま石段を登り始めます。 「ねえ! どこ行くの?」 「だからおもしろいとこ。行けばわかるよ」  必死について行きながら尋ねる僕でしたが、彼女は愉しげにそう言ってはぐらかします。  やがて、蝋燭の明かりに御本尊が照らされる、荘厳なお寺の本堂を左に折れると、その建物をぐるっと廻り込み、背後に広がる闇の中へと彼女は躊躇いもなく突入して行きました。 「ね、ねえ! ほんとにどこ行くつもりなの!?」  突如、表側の賑わう縁日の景色からは一変、その明かりも喧騒も届かぬ静かな夜の暗闇に包まれ、僕はなんだか不安になってもう一度、ユメコちゃんに尋ねます。
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