縁日の夜に

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「着いた! ここだよ」  朗らかにそう答えた彼女に僕も暗闇に目を凝らしてみると、そこはお寺の裏にある村の墓地でした。  鬱蒼と背の高い杉の木が生える裏山の中で、そこだけが切り取られたかのようにガランと広がっています。  濃密な闇に満たされてたその広い空間の中に、苔生したり、風化したりした古い墓石が、微かな月明かりに照らされてニョキニョキと生えていました。 「着いた…って、ここ、お墓だよ?」  人気(ひとけ)のない夜の墓地……薄気味悪くこそすれ、ここのどこがおもしろい所なのか? というニュアンスを込めて尋ねる僕でしたが。 「そだよ。お寺のお墓……ね、ここで肝試ししたらおもしろいと思わない?」  彼女はケロリとした顔で、やはり愉しげにそう答えるのでした。 「き、肝試し!? や、やだよ。そんなの……」 「もしかして怖いの? 男の子なのに意気地なしなんだ」  即座に拒否する僕でしたが、ユメコちゃんは挑発するかのように臆病な僕をなじります。 「そ、そうじゃないけど……暗くて危ないし、お墓が倒れてくるかもしれないよ?」 「やっぱり怖いんだ。仕方ないわね。じゃ、あたし一人で行ってくるから、弱虫はここで待ってなさい」  必死に下手な言い訳を吐いてみせる僕ですが、その心中をすっかり見透かしているユメコちゃんは、侮蔑の視線をこちらに向けて、そう告げると単身墓地へと分け入って行く勢いです。 「わ、わかったよ! ぼ、僕も行くから置いてかないでよお!」  このまま女の子一人で行かすわけには……いや、正直に言えば、ここに自分だけ取り残されるのは余計に怖いので、やむなく僕もその後姿を追って、真っ暗な夜の墓場へと足を踏み入れました。  遠くで微かに縁日の喧騒が聞こえる中、彼女の背中に張り付くようにして、暗くて足下もおぼつかない墓地の中を恐る恐る進んで行きます……両脇に(そび)え立つ墓石の黒い影が、今にも襲いかかってくるような錯覚にとらわれます。
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