縁日の夜に

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「……ねえ、もういいでしょう? あんまし奥まで行かないで戻ろう? 花火始まっちゃうよ?」 「大丈夫だよ。まだまだ時間はたっぷりあるから」  なおもうだうだ言って、なんとか引き返させようとする僕でしたが、ユメコちゃんはまるで聞く耳を持たず、嬉々とした顔でズンズンと墓地の奥深くへと進んで行ってしまいます。  対する僕は生きた心地がせず、恐怖を必死に堪えながら、気づけば彼女の浴衣の裾をぎゅっと掴んで後に隠れていました。 「……ん?」  そうしてどのくらい経った頃でしょう? あまりに怖くて時間の感覚がなくなっていたので、じつはそんなに経っていなかったのかもしれません。  ユメコちゃんの背中越しに前方を覗いていた僕の視界に、なんだか奇妙なものが映りました。 「……傘?」  それは、傘です。ビニール製のよくある傘じゃなく、時代劇でしか見たことないような紙を貼った和傘です。  それが、墓石と墓石の間を通る狭い道の真ん中に、なぜだかぽつんと一本立ってるんです。  辺りは真っ暗なのに、そこだけスポットライトを当てたかのようによく見えます……開かずに閉じた状態で、上から吊るしてでもあるのか? 柄の一本足で自立しています。 「唐傘だね……」  首を傾げる僕の前で、ユメコちゃんがそう呟いた時でした。 「…!?」 「ケケケケケケ…!」  突然、その唐傘がくるりと半回転したかと思うと、現れた裏側には大きな一つ目と口が付いていて、真っ赤な舌をだらんと垂らすと、不気味な声で笑ったのです。 「う、うわあああーっ…!」  刹那の後、僕はありったけの声で悲鳴をあげると、なりふりかまわずその場を逃げ出しました。
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