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斎藤「あ! 山田さーん!」
山田「おう、兄ちゃん」
斎藤「帰りもご一緒していいっすか?」
山田「構わねえよ」
斎藤「ありがとうございまっす」
山田「それよりも凄いな、それ」
斎藤「凄いっしょ? カッケーっしょ? このバイク!」
山田「ああ、凄え」
斎藤「へへっ。山田さんのヤツもカッコいいっすね! 俺、初めて見るかも」
山田「俺のことはいいんだよ。そんなことより実家帰ってみてどうだった? 大丈夫だっただろ?」
斎藤「あー……お袋には泣かれましたし、親父には「この親不孝もんが」って言われましたね」
山田「そうか」
斎藤「仕様がないですけどね。ま、それでも顔見に行ってよかったっす」
山田「兄ちゃんのことが可愛いからそう言うんだ。ちゃんと受け取っとけ」
斎藤「わかってますって。このバイクも親父が作ってくれたもんですし」
山田「ほう。親父さん、器用だな」
斎藤「はい。本人には言えないけど、自慢の親父っす」
山田「そうか、そうか。そりゃあよかった」
斎藤「山田さんは? ご家族は」
山田「みんな元気そうだった。今年は北海道の大学に行っている孫も大分に住んでいる娘も帰省してくれて、みんなが揃ったんだ」
斎藤「よかったっすねぇ」
山田「ああ……」
斎藤「どうしたんすか?」
山田「いや、ウチのが最近陶芸を始めたらしくてな」
斎藤「へえ、いいじゃないっすか」
山田「その教室の先生が来てな。ウチのヤツのことが好きだと言ってきてなぁ」
斎藤「え、みんなの前でですか?」
山田「いいや。俺だけに宣言しに来たらしい」
斎藤「え?! どうするんですか?」
山田「つっても、気持ちを捨てろとも言えねえし。どうしようもできねえさ」
斎藤「奥さん一人にするのも心配ですよね」
山田「ああ、複雑な気分だよ」
佐川「あ、斎藤さん、山田さぁーん!」
斎藤「佐川さん! また会えて嬉しいっす」
佐川「私もです!」
山田「ご両親の体調は大丈夫だったかい?」
佐川「はい。めちゃくちゃ元気でした! 滞在中毎日、旦那と息子と一緒に全力で遊んでましたよ」
山田「そうか」
斎藤「それは何よりっすね」
佐川「虫取りしたり、釣りしたり、ゲームしたり。ランドセルも買いに行ったりしてました。当の本人は買ってもらったパトカーのシールに夢中でしたけど」
山田「ああ、それで」
佐川「そうなんです。いっぱい貼られちゃいまして」
斎藤「大好きなお母さんの為に大好きなシールでデコったんすね。紫が見えなくなるくらい。愛されてるっすね」
佐川「やめてくださいー、泣いちゃいますから。というか、斎藤君のそれ凄すぎません? バイクなんて初めて見ました!」
山田「親父さんが作ったんだと」
佐川「お父さん、料理人なんですか?」
斎藤「いえ、俺と同じ警察官っす。親父みたいな白バイ隊員になるのが夢だったんですけどねぇ」
佐川「ああ、それでバイクなんですね。愛されてますね、斎藤君」
斎藤「へへ。山田さんも負けてないですけどね!」
山田「俺のことはいいよ」
佐川「え、聞きたい、聞きたいです!」
斎藤「山田さんの三十三回忌、遠方の家族もみんな集まったんですって」
佐川「うわぁ、よかったですねぇ!」
山田「まあ、な。それにウチのヤツのことを好いてくれる男が家に来たんだ」
佐川「え?! それはおめでとうございます?」
山田「ああ。まだどうなるかわからないけどな。俺の遺影にしか言っていないらしいから」
斎藤「奥さんにとってこれから先の人生を一緒に過ごしたい人になるといいですね」
山田「ああ。ずっと一人身だったし、このままだと心配だしな。まあ、多少嫉妬もあるが」
佐川「ふふ、素敵ですね」
斎藤「ね、憧れる。ああ、そうだ、佐川さん」
佐川「はい?」
斎藤「山田さんの乗ってるの、何だかわかる? 俺詳しくなくて」
佐川「え? ああ、わかりますけど。山田さん、これお好きなんですか?」
山田「フライにすると美味いんだ。今年も家庭菜園で取れたやつだ」
佐川「立派ですねぇ。固いのによく割りばし刺さりましたね」
斎藤「それでこれ何なんっすか? 緑の茄子、じゃないでしょ?」
佐川「はい。これはズッキーニですね」
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