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人間とは不思議なもので、心の持ちようなんとかなるみたいだ。相変わらずボクを好奇な目で見る視線もあるけれど、前より気にならなくなった。それからは毎日学校に通えて、無事夏休みに入ったのだった。
そして迎えた8月14日当日。覚悟していたことだけど、やはり運命には抗えなかったらしい。雷雨吹きすさぶその日は花火大会がもちろん中止になったのだけど、翌日のボクの誕生日に、香おねえさんといっしょにプラネタリウムを観に行った。もちろんふたりきりで、とはいかず、桂ちゃんも歩くんもいっしょについてきた。そしてなぜか金太くんに銀二くんもセットだった。
来年こそは、とリベンジを誓ったのだけど、それから香おねえさんは中学生になり、なかなか会う機会が減ってしまった。結局誘えずじまいで、ひとりで花火大会を観に行こうとも考えたけれど、みんなに迷惑がかかるからとやめてしまった。
6年生になったその年のお盆の時期は、桂ちゃんと香おねえさん一家は家族旅行に行っていると聞き、少し残念だったが久しぶりに香おねえさんと話せて嬉しかったのをよく覚えている。それからはなかなか会えなくなり、早く中学に行って彼女とまた直々会えるようになるのを楽しみに待つばかりだった。
そしていざ中学生になったとき、ボクはショックを受けてしまった。桂ちゃんの着ている制服は、香おねえさんのそれとまったく違うものだった。詳しく聞いてみると、香おねえさんは私立の中学校に通っているとのこと。香おねえさんは、学校は中高一貫校だから、高校に玉男くんが受かればいっしょに通えるね、とこともなげに言っていた。
それからというものボクは一生懸命勉強したんだ。中学3年間の8月14日も残念ながら夏期講習に潰えてしまった。
「なあ玉男、たまにはいっしょにSBFやろうぜ。少しは息抜きも必要だろ?」
「ああ、うん、この問題解いてからね。」
「はあ、よくやるねえ。こんなにがんばっているやつには、神さまや仏さまもきっと応えてくれるはずだ。」
「今は問題に答えてほしいね。」
「はあ、もう少しユーモアセンスがあればなあ。」
「ユーモアのつもりで言ったんだけど。」
「まあ、玉男らしいや。きっと大丈夫。いつか呪いのほうも。」
「はあ歩くん、ほんとにキミは呪いとか信じているのかい?」
「もちろん、オレは敬虔な信者だぜ。」
「はじめて聞いた。」
「いやマジなこと言うと、オレはれっきとした仏教徒だけどよ。玉男はダライ・ラマの生まれ変わりかなんかじゃないかなと思うわけよ。恵みの雨を人々に分け与える。」
「呪いじゃなかったのかい?」
「まあそういうのは紙一重みたいなものだからな。使い方次第。今までおまえのおかげでこの地域は適度な水を確保できているんだから。みんなの神の使いだよ。特に農家にとっては。」
「仏の使いじゃないのかい。」
「まあ神はときどき仏に仕える身だから、そうとも言うな。」
「信仰のことはわからない。けれど信じてみるのもアリかもな。」
「おまえが自分自身を信じなかったら誰が信じる?」
「農家の人たちとか?」
「相変わらずユーモアセンスがズレているな。だがおまえらしいよ。」
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