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文庫瑠璃が病院に御見舞いに行くと、星宮先輩はベットの上で身を起こした。
「先輩、リンゴ持って来ましたよ」
「リンゴか、ベタだな」
「先輩が助けてくれなかったら、僕は拉致されていましたから。ありがとうございます」
俺もあんな生物に跨がったのは初めてだった。貴重な体験を感謝する。サンキュー」
[星宮月渚の不思議な体験談]
夜、目を覚ますと、枕元に熊が居たんだ。まず、思ったのは、(喰われる!)だった。すると熊は、こちらの心中を見透かした様に喋った。人語を解したんだ。「喰いはしない。文庫瑠璃が危ない、一緒に来い」
「熊の特徴は?」
「レポートに書くのか?」
「エンターテイメントの予感がする始まりかたです」
「お前は、何でもエンターテイメントと言うな。これは、恐怖譚だ」
「なら怪談の部類のエンターテイメントでしょう。聞かせて下さい」
「どちらかというと妖怪譚で民俗学の部類に入る」
「楽しい事。それがエンターテイメントです」
「カテゴリーは民俗学に入れてくれよ」
「枕元の熊の次の行動は?」
「俺の首根っこを咥えて背中に乗せた。そして、屋根から屋根に飛び移り、この焼津に向かったんだ。真っ黒な犬だったよ」
「熊ではないのですか?」
「それは比喩だ。熊はズンドウだろう?アレはもっとスリムだった」
「黒い犬ですか。それなら、僕にも覚えがあります」
文庫瑠璃の不思議な体験談
[喋る黒犬]
「子供の頃、家で犬を飼っていたのです。
僕がモノゴゴロ付いた頃には、もう自宅の裏庭に住んでいました。父が買って来た犬だと思って聞くと、勝手に住みついた犬だというのです。
お祖母ちゃんの部屋の縁側に犬小屋があって、犬はいつも犬小屋の屋根の上に寝そべっていたのです。
僕は、その子をクロと名付けていました。いつの事か判りませんが、お祖母ちゃんから(変な子供だ)と言われたのを覚えています。僕が犬のクロと話しをしていたからです。犬を愛玩する余りペットと話す飼い主は良くいますが、クロの場合、日本語で返事をしていたと記憶しています。凄く狂暴な犬で、撫で様とすると、噛みついて来ました。それが原因で、父がクロを山に捨てに行ったのですが、クロは直ぐに戻って来てしまいました。僕はクロが、僕を護るために戻って来たのだと思っていました。クロと話していた時、クロが(お前を護るためにこの家に来た)と言っていたからです。その後、僕は沼津市に引っ越したのですが、再び静岡市に引っ越してきました。そして、web小説投稿サイトに
怪奇写真をアップするため、近所の神社で撮影していたら撮れた写真がコレです。
社の屋根の上に昔と変わらず、クロが寝そべっていたのです。
この写真を撮った時、肉眼ではクロの姿は見えませんでした。でも、後で撮影した写真を見るとクロが写っていたのです。
その後、僕はミスをしました。僕の家系には、安倍晴明の子孫の土蜘蛛一族の財宝伝説が伝わっているのですが、それをweb小説投稿サイトに書いてしまったのです。それからです。得体のしれない集団にストーカーされ始めたのは、、、。
そして、先日、「怪談」で有名な小泉八雲の朗読会に行くため、焼津市を訪れたら、白い車に尾行されて拉致されそうになったのです」
「そこに現れたのが、俺とクロだという訳か」
「はい、感謝しています」
「しかし、クロに腕を噛まれたストーカーのグループの奴は災難だったな。全治1ヶ月ってところだ」
「僕は、クロが、護ってくれると言った約束を、今でも実行してくれたのが嬉しかったです」
「クロが写った神社に酒でも供えておけ」
「御供えはカップ麺にします」
「カップ麺?」
「クロの好物だったからです」
了
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