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数日後の私の誕生日に、予約した覚えのないデコレーション・ケーキがスタジオに届いた。
ケーキの箱には、蝋燭とフォークが二つ。
一緒に食べる相手はいなかった。
「……あれ?」
棚の前の列に並んだものをあらかた段ボールへ入れたところで、私は奥の方に見慣れない、えらくしっかりした装丁のアルバムがあるのに気がついた。腕を伸ばして引っ張り出してみる。桜色と黄緑を基調にした小花模様のリバティ・プリント。奥にあった割には埃っぽさもない。
リバティは詞のお気に入りの柄だ。
他の荷物と違って、なんとなく吸い寄せらて、私は金縁取りの表紙に指をかけた。
それとほぼ同時に、部屋の中が急に暗くなった。
ドオォ……ン
「……うぁっ!?」
頭を痺れさすような突然の轟音に身体がびくっと痙攣し、手からアルバムが滑り落ちる。身体のバランスが崩れ、丸椅子から外れてしまった足をそのまま床に降ろして後ろを見ると、大粒の雨が網戸から床に入り込んでいた。段ボールが濡れてしまう。慌てて駆け寄り窓を勢いよく閉めたら、パシンと雨粒がガラスにぶつかり、滴が弾けて太い線になって下へ流れた。さっきまで空間を支配していた蝉時雨はどこへやら、今は本物の雨がどどぅと滝さながらの音を立てている。
たぶん、いつものゲリラ豪雨だ。しばらく待っていれば止むだろう。涼しくなってちょうどいい。
私は手のひらを窓から離すと、本棚の方へ戻った。先のアルバムは開いた状態で床の上に寝ている。変に折れなくて良かった。自分の驚き方に呆れながら、アルバムを拾おうと手を伸ばした。
だが、こちらを向いたそのページを見て、一瞬、私の息が止まった。
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