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堪えていたものが情けなく声になるのも止められず、震える手でそれを拾い上げた。いつも使っている写真用紙と比べて妙に分厚い。不思議に思って裏を返せば、そこにあったのは、カレンダーに使ったのと同じ雨上がりの写真。透けるような空にかかる虹と湖面に映ったそれが、木製の橋を挟んで円を作る。
その円の中に、表の手の込んだメッセージとは正反対の、走り書きしたような詞の字があった。
『あとは任せた!!』
ふいに、写真の中の空が、端から明るく変わり始める。
くすんだ虹の七色が、次第に鮮明になっていく。
薄暗い室内に広がる光を感じて後ろを振り返ると、息つく間も無く窓に叩きつける雨粒はない。代わりに間隔を開けて細い線がガラス面にまばらに走り、その向こう、空を埋める鈍色の雲の一部だけが、白と、茜と、黄金を帯びている——そして……
光の筋が、灰がかった空間を貫いた。
天が、二つに裂けた。
スタジオの三脚からカメラを掴み取る。
熱が冷まされた空気の中、白く変わっていくビルの階段に、私の足音が高く鳴り響いていた。
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