甘い話には罠がある

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首を横に傾げれば、図ったように耳元で光る黒色のピアス。クリーム色の髪と対照的なその色は、酷く冷たい男の瞳の色にそっくりで。 この男から早く離れたいと、手に持っていたそれを再度、男の胸に突き付けた。 「落としましたよ」 三回目、同じ言葉を口にした。 黒革のケースに入れられた学生手帳。個人情報が載ってるから大事な物だろうと差し出したままその顔を見上げる。 クリーム髪の男と目が合うけど何も言わずその目を見返す。と、少しだけ男の眉が反応したのが見て取れた。 バシッと乱暴に踏んだくられた手帳。 …痛っ、取り方雑だなこの野郎。 絶対赤くなったぞクソ野郎っ… 男はその手帳を開いて、中身のそれをわたしの目と鼻の先に突き付ける。 「八矢(はちや) (しゅう)」 …うん、八矢愁って書いてありますね。 てかハチ君って名字だったのか。蜂蜜みたいな柔らかい髪色だし名前がそうなのかと思ったら、名前は荒々しい口調と冷たい瞳にピッタリの名前じゃないか。 そしてこの学生手帳に貼られた写真の完璧な事。 滅茶苦茶冷めた瞳をしてる癖に、イケメンだから許されてしまうガン飛ばし。この男のハイチーズはこれなのか。 写真の八矢と目が合っていたかと思えば学生手帳が下ろされ、今度は本物の八矢愁と目が合う。
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