甘い話には罠がある

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数秒無言で見下ろされ、 薄く形の整った口が息を吸う。 「お前、後でちょっと来い」 「嫌です」 「あ?」 はい出た、『ありがとう』の略。 だって嫌だろうよ。初対面でガン飛ばして『後で来い』なんて、絶対シメられるに決まってる。 私はただこの学校で平和に平穏に暮らしたいだけなのに、どうして開始数分で訳の分からん男に出鼻をくじかれなきゃいけないんだ。 落とし物を拾っただけでこれだ。 もう二度と、この学校で落とし物は拾わない。 「今から入学式でその後は宿舎の片付けもあります。職員室にも呼ばれてるし、忙しいので時間を作る余裕はありません」 最もな理由を付ければ、舌打ちで返される。 「俺が来いつってんだけど」 「明日なら時間を作ります、今日は勘弁して下さい。それか急ぎの用ならここで聞くので‥」 「良いから来いつってんだよ」 「…話、聞いて貰えませんか?」 「お前、さっきから誰に口聞いてるか分かってんの?」 「八矢愁さんです」 「気持ち悪い呼び方すんな」 「八矢先輩」 「あ?」 「八矢さん」 「死ね」 「八矢様」 「キモい」 ……貴方の名前なんですけど。
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