甘い話には罠がある

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「つか何これ、掛けてた方が視界ボヤけるんだけど」 「…目が悪いんです、返して下さい」 「ガリ勉は目が悪いってお決まりなんだなぁー」 「決まってません返してください」 正直、これだけ度が高い眼鏡を掛ける程目が悪い訳じゃないんだけど。ただ悪いのも事実で、掛けるか掛けないか比べたら、若干眼鏡を掛けてる方が見えやすいから使ってるだけだ。 コンタクトも自分に合った眼鏡も買う余裕なんてうちには無いし、親父が使っていた事で借金取りに取られる事は無かった少し良い眼鏡を、今は私が使ってる。 良い眼鏡って言っても、当時のだからデザインは古いしレンズも傷だらけだけど。 背の高い男の目元に私の眼鏡。眼鏡はもうそれしか無いし、壊されたらさすがに困ると思って 「返して下さい」 爪先を上げ、その顔に手を伸ばしたら… 「はい、ちょっと失礼」 パサリと、目元に掛かっていた前髪が跳ねられた。 視界がボヤけてるから、蜂蜜色の髪が目の前にある事しか分からない。手を伸ばせば間違えて男の鼻や頬に触れて、それすら気にする余裕も無く何とか眼鏡を取り返し目元に戻せばクリアになった視界の中。 「ふーん、そういう事」 面白い玩具を見つけたかのような嫌らしい笑みを浮かべた男の顔がそこにあって、何処と無く血の気が引くのを肌で感じた。
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