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甘い誘惑
私は何処で、間違えたんだろう‥
思えば中学に上がる時、父親が経営する会社が倒産して借金まみれになったのが地獄の始まりだった。
人の良い父親は借金に更に借金を重ねて、従業員にきっちり退職金を上乗せして払った。
お陰で家族の食卓は、毎朝毎晩もやしか食パンの耳
学校で出る給食が何よりのご馳走で、それすらも払えなくなって中学では部活に入らずバイトを続けた。
お母さんは私が幼い頃、病気で亡くなって。それから男で一つで育ててくれた父親に文句なんて言える訳も無く。例え仕事が長続きしなくたって、趣味でパチンコを始めたって、競馬を始めたって、ろくに働かなくなったって…
ゲシッ
「おい、働けクソ親父」
さすがに文句を言った。
床に転がり白地のタンクトップの下から背中を半分出し、清潔感がまるでない不精髭を生やした父親が上を向く。
「痛ぇよ、陽」
「痛ぇよじゃねぇわクソ親父。毎日毎日家でごろごろして恥ずかしくねぇのか」
「恥ずかしくないね、俺は十分頑張った」
「はぁ?」
「春子が死んでから男で一つでお前を育てて、楽しみなんて一つも無かった。良いだろ、お前も働けるようになったしこれくらいの娯楽」
「娯楽じゃねぇよ、親父がやってんのは現実逃避だろ。滞納してる家賃は?今月の食費は?光熱費も私のバイト代だけでどうやって払ってくつーんだよ」
「さぁな、知らねぇーよ」
「……」
「お前は親父の事まで考えずに自分の生活考えろ。一人で生きてく分にはお前の稼ぎがありゃ十分だろ」
‥クソだ、こんな人生。
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