甘い話には罠がある

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「蓮ー、水ねぇ?」 「わり、さっき飲んじった」 すっと、千冬の鋭い瞳が私に落ちる。 「水ねぇって」 …はい? 「一階渡り廊下、通路のとこに自販機5台。右から三番目にしか売ってない水、ストック5本」 「は?」 「は、じゃねぇよ。奴隷なんだろお前」 「バイトです」 「…あ?」 「奴隷じゃなくて、バイトです」 苛っとしたから、つい語気が強くなった。 荒れ狂って叫び出す程じゃないけどムカつく。私が思う常識はここでは全く通用しないんだと思い知らされる。 むくっとその場から立ち上がって部屋の外へと向かう。 「水を買ってくるのでパスワード教えて下さい」 「あれ?ハル怒ってる?」 「パスワード、教えて下さい」 「92」 92《クズ》じゃないか。 馬鹿にした様に横から顔を覗き込む蓮の肩を払って、淡白な口調でパスワードを教えてくれた伊澄の数字をそのまま打ち込めば、簡単に開く扉。 「ハルー、俺にもお茶買ってきて。適当に」 背後で扉が閉まる前、呑気な蓮の声が聞こえた気がしたけど。それに足を止める事無く、私は五階を後にした。
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