甘い誘惑

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「進路、どうする?」 他に生徒の居ない静まり返った教室で、対面に座った担任が、空白の進路用紙をペラペラと捲りながら溜め息を吐く。 「お前だけだぞ、決まってないの」 「…すみません」 「お前の家の事情は良く分かってるつもりだし、先生も下手な事言えないけどなぁ。来年は受験だぞ?ある程度明確な進路を持って学年上がらないと」   明確な進路、か‥ 明日生きる事にも必死の私が、一年後の自分の事なんて考える余裕も無いのに。 昔は、色々夢があった。 『将来何になりたい?』って項目に書ききれない程、たくさんの夢を綴った。 テレビドラマを見れば直ぐに影響されて、ナースになりたい、先生になりたい、パティシエになりたい、専業主婦になりたい。お母さんと同じ、花屋も良いなって。 「とりあえず、お金が稼げればそれで良いです。高校は行かずに中学出たら働きます」 「働きますって簡単に言うけどなぁ、中卒で雇ってくれる会社は限られてんだぞ?バイトやパートならまだしも、正社員になるにはそれなりの学歴と知識も必要だ」 そんな事、分かってる…   「お前は頭も良いし生活態度も悪くない。他の教師もこぞってお前が進学する事を応援してる」 「応援されても、お金が無ければどうにもなりません」 「…それなんだけどなぁ、ここはどうかって進路主任の山崎先生からお前に預かったんだが…」 そう言ってクリアファイルから取り出した学校案内のチラシを、すっと机に滑らせた。
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