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この道が登り坂だからかな、早歩きしてるにも関わらず、なんかちっとも彼女との距離が縮まない気がする。
あ! 赤信号だ! 良かった、これで彼女に追いつく。
どんどん彼女に近づいていく。距離が近くなるにつれ、少しずつ鼓動が早くなる。単に、ここが登り坂だからだ。緊張しているわけではない――と思う。
やっと彼女に追いつく。
と思った途端に、歩行者信号が青に。
「あ、新井さ……」
僕の声は彼女には届かず。彼女はまた足早に横断歩道を渡っていく……
えー! 新井さん! めっちゃ歩くの早いんですけどー!
だんだん息も上がってくる。新井さん、なんであんなに早歩きなんだ!
僕もだんだん駆け足になってきた。
「新井さん!」
聞こえているのかいないのか振り向きもせず、ただひたすらに前を見て急いでいる。
彼女が角を曲がった。見失ってはいけないと、走って追いかけた。このハンカチを、僕はただ彼女に返したいだけ。ただそれだけなのに。
角を曲がると、前から二十人ぐらいの大学生の集団が、こっちに向かってくる。その集団の中を掻き分けるように彼女は吸い込まれていった。
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