ハンカチが繋ぐ点と点

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 この道が登り坂だからかな、早歩きしてるにも関わらず、なんかちっとも彼女との距離が縮まない気がする。  あ! 赤信号だ! 良かった、これで彼女に追いつく。  どんどん彼女に近づいていく。距離が近くなるにつれ、少しずつ鼓動が早くなる。単に、ここが登り坂だからだ。緊張しているわけではない――と思う。  やっと彼女に追いつく。  と思った途端に、歩行者信号が青に。 「あ、新井さ……」  僕の声は彼女には届かず。彼女はまた足早に横断歩道を渡っていく……  えー! 新井さん! めっちゃ歩くの早いんですけどー!  だんだん息も上がってくる。新井さん、なんであんなに早歩きなんだ!  僕もだんだん駆け足になってきた。 「新井さん!」  聞こえているのかいないのか振り向きもせず、ただひたすらに前を見て急いでいる。  彼女が角を曲がった。見失ってはいけないと、走って追いかけた。このハンカチを、僕はただ彼女に返したいだけ。ただそれだけなのに。  角を曲がると、前から二十人ぐらいの大学生の集団が、こっちに向かってくる。その集団の中を掻き分けるように彼女は吸い込まれていった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加