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とりあえず、息が落ち着くまで会話は止まった。結構走ったから身体が熱い。顔も熱くて額から汗が流れる。
彼女もやはり熱いのか、ハンカチで顔の汗を拭いている。……あれ、ハンカチで?
「新井さん、ハンカチ落としたんじゃ……」
これ、と、彼女の前に差し出した。怪訝そうな表情でハンカチを見たけど、「それ、私のじゃないよ」と一言そう言った。
「でも、新井さんのポケットから落ちたのを見たんだよ」
新井さんは何か思い当たる節があるのか、ポケットに手を突っ込んで何やらゴソゴソとまさぐった。
「あ、レシート落としたわ」
「レシート?」
「別にいらないからいいけど……。で、そのハンカチ、何? それから、もう追いかけてこないで!」
嫌悪感丸出しで、彼女は僕にこう言った。
「振った男が下校中に後ろついてきたら、ストーカー行為でしかないから!」
そう言い歩き出したがもう一度振り返り「もう付いて来ないで!」と、念を押して住宅街に消えていった。
その場にぽつんと残された僕は、何が起きたのか脳が処理しきれず、ただ茫然と立っていた。
ただ僕は新井さんにハンカチを渡したかっただけなのに……
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