せる、じゃねーよ

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 それからホテルの部屋に向かうまでの事は、よく覚えていない。  合コンの後半戦、翔吾はミナミ一人に狙いを定めた。  他の男を決して寄せ付けず、常に隣をキープして、持てる技術の全てを尽くした。  ミナミは、信じられない程に良い女だった。  柔らかな微笑み、機転のきく返し。立てるべきところで男を立て、かといって大人しすぎるということもない。  翔吾は、短時間の飲み会でミナミという女性に夢中になっていた。  だから、身体に酔いがまわるのが、いつもよりずっと早いことにも、全く気が付かなかった。  目が覚めた時、翔吾は裸だった。  かろうじて下着を一枚身につけているが、それ以外は何も着ていない。  仰向けに寝かされているようで、視線の先には天井がある。  見覚えのある天井だった。  確か、ラブホテルだ。  少し前に、来た覚えがある……。 「目が覚めましたか?」  女の声がした。  声がした方を向こうとして、翔吾は異変に気がついた。  身体が動かない。  手も、足も。  四肢が、ベルトのようなもので括り付けられている。  自由の効く首を持ち上げ、眼球を精一杯に動かして、翔吾は声がした方向に視線をやった。  そこには、ミナミの姿があった。  けれど、居酒屋で会った時の服装ではない。  黒いキャップと、黒いジャージ。  手には黒い手袋まではめていた。 「……っぁ……」  何のつもりだ。と言おうとした翔吾の舌は、思い通りに動かなかった。  小さな吐息を漏らす事しかできない。  そんな翔吾の様子を見て、ミナミはクスッと笑った。 「喋れないですよね。そういう薬を使ったので」  翔吾の額に、脂汗が滲んだ。  この女は、頭がおかしい。 「…んうーっ! うううーッ!!!」  四肢の力を振り絞り、翔吾はベッドの上でジタバタと暴れた。  しかし、拘束しているベルトはビクともしない。暴れるほど、自分の手首や足首が痛むだけだった。  力尽き、息も絶え絶えに突っ伏していると、コツコツと足音を立ててミナミが翔吾の側に近寄ってきた。  直後、内腿のあたりに鋭い激痛が走った。 「んゔううううううううううッ!!!」  何か鋭利な棘のようなものが、内腿に突き立てられていた。 「翔吾さん、お箸の使い方が良くない女性がゆるせないんですってね。ミキちゃんから聞きましたよ」  あまりの痛みで涙目になった翔吾は、おそるおそる自分の太ももの方に目をやった。そこには、氷を砕くためのアイスピックが深々と突き刺さっていた。
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