せる、じゃねーよ

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「からあげにレモン汁をかけられるのも、勝手にサラダを取り分けられるのもゆるせないとか。世の中にゆるせない事がたくさんお有りなんですね。翔吾さんがゆるせる物って、存在するんですか?」  ブンっ、と腕が振り下ろされる声が聞こえた。  直後、再度激痛が走った。 「ゔおおおおおおッ!!」  今度は二の腕だった。  太腿と同じように、アイスピックが突き刺さっている。 「そもそも、ゆるせるってどんなお立場からの発言なんですか? 翔吾さんは世の女性の可、不可をお決めになれるような方なんでしょうか。私にはそうは思えません」  内腿と二の腕の激痛で、翔吾の息はどんどん荒くなっていく。  自分の激しい息遣いで、翔吾はミナミがベッドから少し離れたことにも気がつかなかった。 「ゆるせる、という言葉には、それが可能か、というニュアンスが含まれます。ゆるせない、と表現するなら、それが出来ないという意味になりますね。けど、私が翔吾さんに抱いている気持ちは、そのどちらでもありません」  ミナミは、ベッドから少し離れた場所にあるバッグに手を差し込んだ。カチャ、と金属が擦れ合う音がしている。  ゴトッ、と重みのある物体がテーブルの上に置かれる音もした。 「私の感情は、『ゆるさない』です。それが出来るか、出来ないかではなく、明確な自分の意志を持って、貴方を『ゆるさない』と決めました」  コツ、コツと歩く音が翔吾の耳に聞こえた。  痛みで大きく見開かれた翔吾の瞳に、影が落ちる。 「……見えますか?」  ミナミが翔吾の頭上に掲げたのは、大きな鉄製の鋏だった。  その他にも、ミナミは次々と道具を翔吾に見せていった。  ノコギリ、ペンチ、ニッパー、ハンマーに釘。  翔吾の身体は、もう震えが止まらなくなっていた。  これらの道具を使い、これからミナミは自分に何をするのか。  それを考えるだけで、翔吾は気が遠くなった。  自分では気付かないうちに、失禁すらしていた。
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