新しい世界

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 さて、それからの話だが。  あの動画は、瞬く間に百万再生された。一部を切り取って加工したものが、ネットスラングとして出回りさえした。  その結果俺は、会社をクビになった。 一応IT系であるうちの会社は、社員のSNS利用が禁止されていたのだ。 その処遇を俺から聞いた諒は、呆れ顔で呟く。 「そこ厳密に取り締まるなら、ブラックな体質をまず取り締まるべきなんじゃ……」 「そんな理屈が通用しないからブラックなんだよ」  どのみち辞めたい気持ちはずっとあって、踏ん切りがつかなかっただけなのだ。諒が本当はすべてぶちまけてしまいたいと思っていたように、俺もいつかは自分の弱さと向き合うべきなのだと思っていた。でもそれが怖くて、全部を生まれや世の中のせいにして、逃げていた。いい機会だったのだ。 「そうは言っても、当面の生活費、どうしよ……」  貯金は雀の涙ほどしかない。頭を抱える俺に、諒がおもむろに封筒を差し出した。 「金、あるよ」 「へ?」 「さっき買い物行ったとき下ろしてきた。この間の配信で課金されたやつだから、小島のもんだよ。好きに使って」  中身を確認すると、結構な額だった。家賃を払っても、しばらくもつ。 「しばらくのんびりして、やりたいことでも探せば」 「……そうするかな」  あがいても無駄だとは思わずに、人生のやり直しにトライしてみるか。  うまくいくのか、不安はある。  だけど、すべてを生まれつきのせいにして腐っていた頃よりは、充実した日々になるんじゃないか。微かな予感は、胸の奥をそっと震わせた。                           〈了〉                          20211107  
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