いつか終わる One Day Dream

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玄関から少し離れた人目のつかないところで京子さんは待っていた。 「あ、蓮くん。みやこの様子はどう?」 「まだ目を覚ましません、それでも今夜がヤマだと」 「そっかぁ、私なんかのせいでこんな面倒なことになっちゃったんだね」 その横顔は寂しそうだけど無理もない、京子さんもあの叫びを聞いてしまったのだから。 だけどどうしても確認しておきたいことがあった。 「……京子さん、東雲の友達として聞きたいんです。貴女は東雲の事をどう思ってました?」 僕が思う通りの人ならきっと東雲にとっては文字通りの支えとなっていた人だ。 だからこそそこに齟齬がないかちゃんと確認しておきたかった。 「心配な子だったな、私達の家はね親が機嫌悪くなるとすぐ殴ってきてさ。最初はお母さんも守っていてくれたんだけど段々無視されるようになっちゃって」 やはりあの時に見えた子供は京子さんだったという事か。 そこまでは推察できてもしまいだったというのは気が付かなかったけど。 「それでも私の前では泣かないで大丈夫だよなんていう子だった。まだ10歳くらいの子がだよ?そんなの酷いじゃん」 そう、僕らの前でもどれだけ心配しても大丈夫とあしらっていた。 まるで誰かの手を掴むことを拒むかのように。 「それでこっそり皿洗いのバイトとかして中学卒業と同時に家を出たんだ、宮古も小学校卒業だったし機会もよかった。それで東雲の家に逃げ込んで訳を話して引き取ってもらったの」 それで名字が変わり東雲は浅井からそちらを名乗るようになった。 「それでもさ、暴行された疵ってのが後になって効いてきてね。そのまま亡くなっちゃったって訳」 そう言って掻き上げた髪の中には今も痛々しい縫合のあとがあった。 その光景に思わず手に血が滲むほど強く拳を握る。 そんな奴、親として失格だろうに。 「あの子も私も碌な人生を送ってこなかったからさ、せめてみやこには綺麗な景色を知ってほしかったんだけどね」 」 京子さんは何処か愁いを帯びた顔をしていた。 だけどそこにあったのは紛れもなく、自分の妹に幸せになって欲しいという親心だった。 「やっぱり東雲は愛されてたんですね」 「うん、世界で一番大事な妹だもん。幸せになって欲しい子だから」 そう語る京子さんはどこか楽しそうで、だけど同時に寂しそうでもあった。 「だけどね、あの子がずっと私に縛られるのも嫌なんだ。だからお願いがあるの」 そしてあの日と同じように真剣な目で初めて、僕に頼みごとをした。 「東雲宮子を開放してあげて?もう私がいなくても大丈夫って教えてあげて?」
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