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雅、先生を避ける
それから数日、わたしは授業以外で先生を避けた。
バッタリ廊下で会ってしまった日なんかは
ダッシュで引き返したりもした。
ふふふ、これで先生はわたしの虜に「林、何してんだ?」
「うわぁぁぁーーーっ」
せ、せ、せ、先生!!
「お前、最近、俺を避けてないか?」
ちょっと寂しそうに見えるのは気のせいかな?
「そ、そ、ソンナコトナイデスヨ」
わたしはその場から逃げ出そうとした。
けど、先生は腕を掴んで離してくれない。
せ、せ、先生!?
なんと大胆なっ!!
「俺がなにかしたか?」
うるうるした瞳に思わず
「先生は何もしておりませんっ!
わたしは恋の駆け引きを、あっ」
やっちまった。
「やっぱりな、お前のことだ。そういうことだろうと思ったよ。」
安堵したように息を吐く先生。
「先生、なんかホッとしてる?」
「?! し、してないよ」
顔を赤くする先生。
あれ?
これって……もしかしてだけど
「先生、わたしのこと好きなの?」
「……あぁ。生徒としてな」
その言葉に胸がズキンとする。
なんだ、期待して損した。
こんなのいつものこと。
だけど、先生、わたしは分かっちゃったよ。
先生の気持ちが変わり始めたことを。
だから本当のことを教えてよ。
「違うよ、わたしが聞きたいのは、生徒としてのわたしを好きなのかじゃない。ひとりの女性としてわたしのことが好きなのか聞きたいの。」
「……知ったところでどうするんだ。もう俺たちはあの頃に戻れない。生徒と教師なんだぞ。」
生徒と教師、事あるごとに先生が口に出す言葉。
「先生はいつも、そうだよね、生徒と教師だからってお茶を濁して……」
なんだか、悲しくなってきた。
「……ごめん。雅」
先生が教師になって初めて口にしたわたしの名前。
嬉しいはずなのに悲しくてわたしは押し黙った。
この関係が先生との恋の障壁になるなら。
諦めよう。
わたしはつくり笑いを浮かべた。
「ごめんね、先生。今まで迷惑かけて。もう迷惑かけないから。」
わたしは踵を返した。
「おい、林」
先生に泣いているのを見られたくなかったから。
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