わたしをお嫁さんにしてください!!

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わたしをお嫁さんにしてください!!

ねぇ、先生、覚えていますか? 幼き日の、あの約束を。 「わたしをお嫁さんにしてください!!」 わたしは勢いよく、青木紺先生に言った。 「林さん?授業中ですよ?」 先生が額に青筋を浮かべる。 「先生!わたし今日で十六歳になるんですよ! だから、いつでもお嫁に行けます! 結婚してください!」 「ダメです。」 そのやり取りにクラス中が笑う。 わたしが先生のことを好きなのは周知の事実だ。 「いいから授業に集中しなさい。林さん?」 むぅー。 わたしはむくれる。 「はい、すみませんでした」 わたしは大人しく席に座る。 先生はため息をつき授業を再開した。 「(みやび)まだ青木先生諦めてないの?」 親友の春ちゃんが、呆れた表情をする。 「だって、五歳のときに約束したもん。先生、結婚してくれるって言ったもん。」 「あのねぇ……そんな小さい頃の約束先生が覚えてるわけないでしょ?仮に覚えてるとしても相手は教師だよ?残念だけど二人は結ばれることのない運命なんだよ。さっさと諦めて次の恋に進もう?」 ……そんなこと分かってる。 わたしたちは教師と生徒であって決して 結ばれないくらい。 だけど、期待しちゃうんだよ。 いつか先生が振り向いてくれるんじゃないかって。 「やだ」 わたしは机に突っ伏して窓の外を見た。 「もう、頑固な子だね」 呆れた声で春ちゃんが言った。 仕方ないじゃない。 恋は盲目って言うし。 わたしはため息をついた。 ◯◯◯◯◯ 放課後 「せーんせい」 わたしは職員室の扉からひょっこり頭を出した。 「あら、また来たの林さん」 数学の山内先生が困ったように笑う。 「はいっ!青木先生いますかー?」 「青木先生ならいつもの席にいるわよ」 「ありがとーございまーす!」 わたしはにっこり笑うと、先生のところへ 歩き出した。 「せーんせい」 わたしはパソコンで何やら打ち込んでいる 先生の後ろから声を掛けた。 「林、また来たのか」 うんざりしたような顔をする先生。 「もう!うんざりした顔しないでよ!」 「そりゃうんざりするよ、ここんとこ毎日来てるだろお前。」 「むぅ」 わたしは頰を膨らませた。 「っていうかお前授業中にあんなこと言うのやめろ」 「あんなことって?」 本当は分かってるけど聞き返してみる。 「俺に『わたしをお嫁さんにしてください!!』って言っただろ!」 「先生はわたしとの約束覚えてないの?」 先生ははぁっとため息をついた。 「覚えてない。」 「本当に??」 「だから覚えてないって。あのなぁいくら幼馴染でも、俺は教師、お前は生徒。気軽に話しかけるな」 その言葉にちょっと悲しくなった。 「紺くん、わたしは覚えてるよ、あの日の約束」 沈んだ声を演出する。 先生の瞳が揺らいだのをわたしは見逃さなかった。 「ねぇ、やっぱり覚えてるんでしょ?!」 「覚えてないです、それと紺くんって言うな」 「むぅ」 わたしはまたもや頰を膨らませた。 「先生、忙しいので帰ってください」 わたしは「分かったよ……じゃあね先生」と 踵を返した。 「あ、林」 わたしは先生の方を振り向いた。 「誕生日おめでとう……」 キュン。 覚えててくれたんだ。 「ありがとう!先生!」 わたしは今日イチの笑顔を浮かべた。
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