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夜に咲く朝顔
夜美人と依り代を通して会話してから、3日後の夜。
久しぶりの雨が降った。
久志朗とらんぷは、ユミルと詩枝にも全ての事情を説明し、協力してもらうことにした。
ユミルは「僕が手伝って欲しいって言ったのに、協力しないなんて選択肢があるわけないじゃないか!」と明るく言ったが、その一方で、詩枝の表情は暗く沈んでいた。
とはいえ、協力はしてくれるというので、借りていた和傘を一端、詩枝の住まう町屋へ移して、ユミルに見張らせることにした。
らんぷと久志朗は夜美人が依り代とする夜顔を、柳の下へ置き、待機する。
柳の幹が、夜顔の花弁を雨粒から守ってくれているところを確認し終わった後で、2人は柳の木の輪郭が見える場所へ移動する。民家と民家の間を通る細い路地の間から覗いて丁度、柳の木の輪郭が見える場所だ。
「らんぷちゃん、あんまり見えへんやろ。今日は月明りもないし」
「うん。……夜顔の花が淡く光ってるところしか見えないや」
「……安心し。あの傘がほんまに来たら、昨日みたいに夜美人さんが燐光で照らしてくれるはずや」
ということで、目立たないビニール傘で雨を遮りながら、2人はじっとユミルからの連絡を待っていた。
夏とはいえ、雨に濡れた腕が冷たく、らんぷは身震いする。
すると意外に早く、ユミルからの着信があった。
『動いたよ。足取りが覚束ない様子だ。結構、時間かかるかも』
その言葉に、らんぷと久志朗は頷き合った。
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