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『あの傘が動かなかったら、犯人さんは別にいることになる?』
『そやね。そん時はそん時や』
ここに来るまでの道中、そんな会話をしたことを思い出して、らんぷはホッと胸を撫でおろした。
「今、動いたゆうことは10分……ユミルが言うてたことを考慮すると15から20分くらいかかるかもしれへんな」
「うん」
「らんぷちゃん、もうちょっとこっちに寄り。腕、濡れてる」
細い路地。傘を2つも差すと何かあった時にすぐに動けないので、2人は1つの傘を使っていた。
「らんぷは大丈夫だよ」
「……大丈夫ちゃうやろ、気づかんくて悪い事した。もっとこっちおいで」
ぐいと、腰を半ば抱え込まれるような形で引き寄せられて、らんぷの口から「うひぇ」と変な声が漏れた。
「なんや、その声」
「……っん……も、申し訳ない……」
耳元から囁かれた久志朗の声に、らんぷが身を縮こまらせると、久志朗はふっと笑い、唇をより一層耳元へ寄せる。
「なんで謝るん。……らんぷちゃんはちょっと敏感なだけやろ?」
「……んぅ」
なんだろう。なんだろう、なんだろう!
頭の中が沸騰するような。そんな感覚がらんぷを襲う。未だかつてない熱さだ。久志朗の声が、腰に響く。
「……い、今は、ちょっと、えっちな声を出さないで欲しいのだが」
小さな声で叫ぶと、久志朗の喉からクツクツと音がした。
「ふっ……ははは!らんぷちゃんはほんまに面白いなあ」
「ほ、褒められた!」
「うん、褒めた、褒めた」
戯れに言葉を交わし、体温を分け合いながら、10分が過ぎて15分が経った頃。
──コンッ……ザリ……コン……ザリ
雨音に遮られてよく分からないが、ゆっくりと、その音は徐々に聞こえ近づいてきた。
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