夜に咲く朝顔

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小刻みに飛び跳ねるその音。たまに擦るような音。 詩枝は、この音を聞いただけで、ぽっくり下駄の音だと分かったのか。 正直言って、雨音に遮られて音が遠い上に、やはり一本足で歩いているのだろうその音の規則では、ぽっくり下駄で歩いているのか、普通の下駄を履いているのか。らんぷにはさっぱり分からなかった。 (……違う、違う。今はこんなこと考えてる場合じゃないでしょ) らんぷは改めて柳の方へと目を凝らした。 すっかり目が暗闇になれて、先よりも柳の輪郭が濃く見えるようになった。 「……来た」 久志朗の呟きと共に、濃く黒い影が柳の木に近づいた。 夜顔を依り代とした夜美人が、光の粒に縁どられて、姿を現す。 辺りが照らされた。柳に寄った一層濃い影の様相が明らかになる。 青白く透けて見える一本足と、細い両腕。手にはわずかばかりの朝顔。 表情こそ見えないが、石突の部分が白く、閉じた傘の小間の色合いが頂点から広がるに掛けて白から濃い紫へ。美しく洗練されたそれは、間違いなく詩枝の家にあったあの和傘だ。 燐光に淡く透ける夜美人と、異様な風体のその和傘はしばらく見つめ合った。
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