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唐突に、傘はパッと花咲くように開いた。
同時に、両手に握り萎んだ朝顔が、地面を叩く雨とともに静かに散る。
──夜に咲く朝顔。
なるほど、そういうことか。
朝顔のようなあの傘は、夜に咲くために古傍が造り上げたものだったのである。
───……あ、あなたの……
傘の声だろうか。静かで低い声が、消えるように、けれどはっきりと言葉を紡ぐ。
──……あなたのほうが、綺麗だけれど。
もしかしたら、その声音は古傍のものだったのかもしれない。詰まるような声音で切なさを帯びていた。
古傍の思念だけで動いていたその傘は、夜美人に言葉を伝えたことで未練を絶ったのかもしれない。
透けていた手足は闇夜に溶けて、傘はその場に倒れ、動く気配を無くしていた。
こっそりと、夜美人の表情を覗く。
『………』
静かで、穏やかな顔だ。気のせいだろうか、彼女の身体がより白く光りを発しているような気がする。いや、気のせいではない。白く光りながら、徐々に燐光に呑まれている。
「!?」
どうして、らんぷは背後に立つ久志朗の顔を見上げた。
彼の表情に動揺はなく、むしろ当然のことを受け止めるような顔をしていた。
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