59人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
「彼女にはもう、この地に縛られるような未練がない。静かに逝かせてあげな」
「……うん」
夜美人を包んでいた燐光が、足元から蛍のように散らばっていく。
最後。
彼女はちらりと、視線を流した。その口元には微かな笑みが浮かんでいる。
散らばる光は、そんな彼女の口元さえ呑み込んで、空高く。空高く。
夜の一点を突き抜けるように飛んでいった。
「……優しい笑い方する人だったんだね。古傍さんが恋しちゃうのも分かるなあ」
らんぷが呆然としたように呟くと、久志朗は「そうやね」と答えた。
今日は月明りの灯る夜だったら良かったのに。
そうすれば、まだ、あの光を見ていられたのかもしれない。
らんぷは名残惜しい気持ちを抑えながら、光のない底抜けの暗い夜空を見上げた。
最初のコメントを投稿しよう!