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想う心の行き先
「それで、ぜーんぶ君達が解決しちゃったんだもの。僕の見せ場が全然なかったよねえ。感謝してるけどさ、除け者にされた僕が可哀相だと思わない?」
翌日の朝。らんぷと久志朗が昼食を取っている最中に、ユミルが姿を現した。
「思わへんわ。……それより何で電話かけてきたあとすぐにこっちに来へんかったん。そっちの方がびっくりしたわ」
あの後分かったことだが、ユミルは動き出した傘の跡を追わずに、詩枝と共にそのまま家で待機していたのだった。
おかげで、今年もまた五条坂の軒先に咲いていた青い朝顔は、朝に皆の目を楽しませる前に無残な姿で地面に散ってしまったのである。
「いやあ、だって、詩枝さんが家に残るっていうから仕方がないだろう。まさか彼女を1人で置いておけないしさ」
「……はあ」
久志朗は重たい溜息を吐いた。
「詩枝さんは夜中に出歩くのが怖かったの?」
京都の夜は、あやかしの類が、町中を闊歩する。例えるならそう。昼間の中華街以上に、京都の町はあやかしで賑わう。
それ故に、出歩く人間はほとんどいない。どうしても出歩かなければならない時にはヒイラギの葉を持つか、あるいはあやかし除けの護符を持ち、彼らと目を合わせないようにするために、顔を伏せて歩くべきなのだ。もちろんあの夜は、らんぷも護符をちゃんとポケットに入れていた。いや、久志朗に入れさせられたと言った方が正しい。
そういう事情があるから、らんぷは詩枝がたた単に夜に出歩くことが嫌だったのかとそう考えたのだが。
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