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「……違うと思うで」
「?」
「そんなことよか。ユミル、ここの近くに美味しいアップルパイの店があるんやわ。買ってきてくれへん」
「うわ、僕来たばっかりなのに!」
「問題解決したお礼にしては安い方ちゃう」
「ええ、それだったらもっと別の形でしようと思ってたのに」
「ええから、アップルパイ買ってきて」
久志朗の言葉に、ユミルは肩を落としながらも「僕にも食べさせてよね!」と、いそいそと食堂を飛び出して行った。
「……それで、話の続きやけど」
久志朗はティーカップをソーサーの上に静かに置いた。
「うん」
「これは私の単なる推測やけど。詩枝さんは古傍さんのこと慕ってはったんや思うで」
「え!?」
「なんでそんな驚くん」
「だって詩枝さん、古傍さんのあの傘ほかすって……捨てるって言ってたよ?」
好きな人が亡くなる間際に造ったというあの傘をああも簡単に「ほかす」と言えるものだろうか。現に動く力を無くした今も、あの傘はらんぷと久志朗の手に預けられている。詩枝は「もう必要ありませんから」というだけで、その傘を頑なに受け入れようとはしなかった。
「せやから、慕ってはったんや。今はもう慕ってへんねやろ」
「……亡くなったから好きじゃなくなっちゃったのかな」
らんぷの呟きに、久志朗は優しく首を振る。
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