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「いや、お亡くなりになってしばらくは、慕ってはったんや思う」
「じゃあ、なんであの傘を捨てるなんていったんだ」
らんぷが、ほんの少し怒るように言うので、久志朗は優しい教師が聞き分けのない生徒を宥めるような声音で答えた。
「詩枝さんは、あの傘が犯人やてある程度気づいてはった」
「え!?」
「あの足音だけで、舞妓のおこぼ履いてるて判断出来るんは、すごいことや。実際、晴れてる日に加えて、普通に歩いている音でやったら判断できるんかもしれへんけど。……あんな自信満々には答えられるとはどうしても思えへんねん」
それはらんぷも、あの夜に考えていたことだ。
らんぷは足音のリズムで「からかさ小僧」に近いあやかしなのではないかと推測したが、音だけでは雨音のせいもあって、普通の下駄の音との違いがよく分からなかった。
とはいえ、元舞妓である詩枝にしか分からないことであると言われればそれまでで。
らんぷは「そんなもんか」と頷く以外に何を出来ようはずもない。
「もし、気づいていたとしたら、なんで何も言わなかったんだろう」
らんぷの問とも言えない呟きに、久志朗は天上を見上げた。
「言いづらくなってしもたんやろなあ」
「……?」
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