想う心の行き先

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「詩枝さんが、去年からあの傘が犯人やて気づいていたんやとして。最初は、自分で何とかしよ思た。あの傘がどういう理由で動いてるんかは、分からへんけど、好きな人が残した何かが不可解なことする理由を、知りたいて思た。とする」 「……ふむ」 「そんでもって、時が経って古傍さんへの気持ちも薄れて、問題を解決するんが面倒になって。せやけど、元々あの傘が朝顔むしり取ってた犯人やて知ってたなんて言ったらご近所さんが怖いやろ。それに加えて、自分の意思で捨てたり、誰かに譲ったりしたら祟られそうやから、ユミルにそれとなく伝えて、全部処理してもらおて思いはったのかもしれへん」 では、詩枝は自分が気づいていたことは伏せて、ユミルに実はあの和傘が犯人だったという指摘をさせて「自分は何も知らなかった」という体裁を取ろうとしたということか。とてもそんなことを考えるような人には見えなかったが。 「まあ、でも、あいつがなかなか気づいてくれへんから。それで苛立って、ほんまにほかしたろかて、言葉に出してしもただけかもしれへん」 「なるほど」 「昨日の夜。詩枝さんが家の中に残るて言うたんは、別の女の所行くために古傍さんの遺作であるあの傘が動いてたて知って、腹立たしく思てはった……て、考えると昨日全部の事情話した時のあの詩枝さんの表情に説明がつくわけやけど。ほんまのことは分からへんなあ。ぜーんぶ、私の想像やし」 久志朗は、ティーカップに口をつけた。彼の凪いだ表情を見つめながら、らんぷは昨日の夜のことを思い出してぼそりと言葉を零す。 「死んじゃった後でも、想っていて欲しいって思うのは我儘なことなのかな」
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