許さない男

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「絶対に幸せにならなきゃ許さないからな!」  ドラマでしか聞いたことのない捨て台詞を吐きその場から逃げ出した。 「昌幸! ありがとな!」  啓太が手を大袈裟に振った。反対の手には即席で間に合わせて渡した祝儀袋を握りしめている。その隣には三日前に振られたばかりの麻耶が気まずそうに微笑んでいた。 「くそっ。知っていたら告白なんかしなかったよ!」  後の祭りである。  今朝、昌幸から話があると呼び出された時にある種の予感があった。指定された場所は自宅から自転車で五分ほどで着く馴染みのカフェだ。そういう気遣いをさらりとする啓太に嫉妬心を抱いていた。 「えっ、赤ちゃん?」  麻耶が恥ずかしそうにお腹を撫でた。麻耶のお腹には新しい命が宿っていると告白を受け、笑っておめでとうと言えたのはなけなしの自尊心からだった。俺は涙で滲むのをそのままに自転車を自宅とは反対側に走らせた。川だ。水で全てを流そう等と瞬間的に思い、無茶なスピードで坂を下った。頭のどこかではこのまま消えてしまいたいと思っていたかもしれない。  トラックの盛大なクラクションが鳴ったが、避けきれずにーーそうして俺は死んだらしい。
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