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目の前に座る刑事が大人ぶった気味の悪い笑顔で問いかけ始める。
「君と野原苺さんの関係について教えてくれるかな。もちろん、言いたくないことは言わなくていいからね」
「苺とあたしは親友だった」
嘘つきな大人め。あたしが言いたくないことでも知りたいくせに。
「ありがとう。苺さんが死ぬ前、何かに悩んでいた様子はなかったかい?」
「ううん、いつもと同じ。あと言っておくけど苺は自殺したんじゃないよ」
ところで、それなりの理由がないと死んじゃダメなの?
刑事が不思議そうにこちらを見てくるのであたしは続けて答えた。
「あの子は記憶喪失になりたかったの。あたしはそれを手伝ってた。記憶喪失になる過程で死んじゃったから事故になるんじゃないの?」
「具体的にはどういったことをしていたんだい?」
「階段を転がり落ちたり、植木鉢を頭にぶつけてみたり。死にそうな場面は何度もあったよ」
この場面で「死んでもいいみたいだった」とか言うと苺は悲劇のヒロインになれるのかな。
「苺さんが記憶喪失になりたがっていたことを証明するものはある?」
「うん。ちゃんとスマホにも残ってるよ。未来の自分に向けて話すんだって言うから、あたしのスマホで動画を撮ってた」
「それ、見せてくれる?」
「うん、いいよ」
あたしは制服のポケットからスマホを取り出した。カメラロールを漁るとわりとすぐに動画は見つかった。
液晶画面の向こう側からあどけない笑顔であの子がこちらを見ていた。ぞっとするほどに甘く幼い笑顔だった。
『私、野原苺はこれから記憶喪失になります。その為に親友の鳳梨が手伝ってくれます。記憶喪失になった私、何か困ったことがあったら鳳梨を頼ってね!』
『えー、やだよー』
きゃっきゃと十代特有の笑い声はやっぱり耳に痛い。そして唐突に映像は途切れた。その乱雑さがあたしたちらしいと思った。
「なるほど、ありがとう。……事件当日のことを聞かせてもらえるかな?」
刑事の鋭い眼光を受けながら、あたしは思考を巡らせた。
「えーっと、あの日は確か……」
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