さよなら苺ちゃん

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「助けようとは思わなかった? 死ぬとは思わなかった?」  話が終わるや否や、刑事が少し責める口調であたしに聞いてきた。 「何、刑事さんまでそんなこと言うの? 当たり前だけど死んで欲しくはなかったよ。でもあたしのエゴで苺のしたいことを止める理由にはならないとも思った。……はぁ、たったそれだけの事で非常識扱いされるのは懲り懲りなんだけど」  十代って多かれ少なかれみんな非常識なんじゃないの。そういう生き物なんじゃないの。  あたしのため息混じりの言葉に刑事は少し冷静になったようだ。 「……最後に一つだけ聞かせてくれるかな?」  あたしは頷く。 「君は苺さんが記憶喪失になりたい理由を知っていたかい?」 「いいえ。知りたいとも思わなかった。理解し合えることだけが友達になれる条件ってわけでもないでしょ」  あたしの返答に刑事は口を噤んでいる。こちらの言い分を理解しようとしてくれているのかもしれないけど、そもそも大人たちに相互理解なんてものを求めてはいない。  だから、あたしは自分勝手に口を開き続けた。理解してもらうためなんかじゃないよ。あたしがただ言いたかっただけ。 「分かり合うことが出来ないからこそ、繋がりを持つことが可能なんだって信じてるんだよ。あたしは苺の周りにいる人達みたいに苺を理解しようとはしなかった。だから苺の特別になれた。それがあたしたちが親友であることの証明にもなるんじゃん。……あの子のことを何も知らないで! って苺のママにさっき頬を殴られたけど正直それはあたしの台詞じゃない? 笑っちゃうよね。知ってるから何? 人間同士の交流に知識量なんて必要なくない?」  そもそも人間同士分かり合えなきゃいけない、なんて誰が決めたよ。  それで事情聴取は終わった。大人は忙しいから子どもの戯言に付き合いきれないってさ。直接そう言われたわけじゃないけど、当たらずとも遠からず。でしょ?  刑事も二度とこんな面倒臭い奴と面談なんてしたくないと思ったはず。  苺のママはあたしを殴ったことを多少なりとも後ろめたく感じていたのか、はたまた警察から注意でも受けたのか、以降あたしが不利益を被ることは無かった。  にわかには信じ難いが、苺のことを知っている全員が相変わらず「自殺するような子じゃなかった」って口を揃えて言うものだから警察もこの件を事故として片付けた。  あの子が記憶喪失になりたかったことを誰がどこまで本気で信じているかは分からなかったけれど、こうしてあたしの悲願は達成されたのだった。  めでたしめでたし、ってね。
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