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けれどはやてという少年は、真楽の予想を裏切る行動ばかりを取っていた。
それは真楽の中で諦めていた焔を再び灯させていく。知らず知らずの内に、諦めたくないという気持ちへと切り替わっていた。
『……何じゃお前さん、わかっておるじゃないか。真楽よ、お前さんは常に後ろ向きじゃった。事流れ主義とも謂うのかもしれんが』
ぬらりひょんは両眼を細め、盛大に呆れる。真楽へ軽めの凸ピンをお見舞いし、やれやれ顔になった。
『そんなお前さんはあの子と行動をする内に、胸の奥にしまっていた……無理やり閉じこめておった【諦めたくない】という気持ちの蓋を、再び開けたんじゃろうて』
そうでなければ説明がつかないと、叱咤する。
真楽はぬらりひょんのシワだらけな顔を見つめた。そして首の後ろをひと搔きし、庭園を注視する。
──俺は坊が来るまで、諦めた日々を過ごしてたんや。どんなに調べても、あやかしらに尋ねても、俺の目の治し方や行方を知る者はおらへんかった。
「手詰まりやったんや。俺一人の力やと、限界やったんやろね。そんな刻に坊が現れて、あの不思議な力を視せられて……呪われた者たちを次々と解放していきおったんや」
そんなのを視せられてしまえば、諦めも吹き飛ぶというもの。ならばウジウジしているよりも、はやてとともに行動するべきではないか。
「……ああ、そっか。これが、諦めてへんって事なんやね」
真楽は、いつしか諦めという言葉が消えていた事実に驚いた。
腰を上げ、大きく背伸びをする。庭からぬらりひょんへと視線を変えた。
「爺さんに教えられたんは不本意やけど……」
本人ですら知らなかった気持ちに気づかせてくれた。そのことへの感謝をこめ、真楽は「ありがとな」と礼を述べる。
『……ふんっ、お前さんのために謂ったわけではないわ。変わろうとしおる気持ちを無視し続け、孫へ迷惑をかけまくられたらたまらんからの』
孫大好きなぬらりひょんにとって、はやてを危うい目に合わせる可能性のある芽は早めに潰す。それに限るのだと、声を出して嗤った。
刹那、二人の眼前に、風に乗った雪が飛んでくる。
真楽は布の上から雪を当てられ、ぬらりひょんは寸前で避けた。
一体何事かと、彼らは庭を凝視する。するとそこには、雪遊びに夢中になっている大きな虫のあやかしがいた。リーンリーンと鳴いていることから鈴虫の類いなのだろう。
「デカっ!?」
二階建てぐらいはある巨大なあやかしだ。
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