今日の京都はぬらりひょんの手のひらで

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 今時の若者にしては珍しく、超がつくほどの真面目一徹だ。かと思えば、動物を前にすると豹変してしまう。常にツンツンした態度が崩れ、かなりデレデレになっていた。  儚げな見目通り、美しく純粋な心を持ち合わせている。けれど…… 「坊は強いんやな思うとったけど、ホンマは違うんやね」  弱く脆い心があるから、無理して強がっているだけ。辛い時も涙を堪え、弱音は見せない。本当にどうしようもない時だけは泣くが、それは他者のため。 「せやけど……」  前へ進もうとしている。そう感じるほどに、はやては出会った頃と比べると変わっていた。 「絡新婦ん刻は流れのままやったと思う。せやけど、寺町通の狸は違う。考えて、何度も悩んで悩み抜いて……座敷わらしを救い、狸も助ける方法を見つけようとしたんやと思う」  けれど座敷わらしの願いである力を取り戻すためには、狸が命を差し出す必要があった。もともと狸は死んでいたとは謂え、はやてにとっては一緒に商店街を探検した仲間だったのだろう。  だからこそ幽世(とこよ)に逝ける方法を考えた。それが本当の意味で狸を苦しみから解き放つから。 「せやけど、そないな方法あらへんねん。だから坊は悩み続け、最後は呪いに囚われた座敷わらしを救う道を選んだんや」  それは苦渋の決断であり、はやての心は罪悪感で蝕まれていく方法だ。 「……始めて犠牲が生まれる選択をしたんや。それはそういった選択が存在しとるって、初めて知った瞬間やったんやろね」  絡新婦との対峙時には考えられない選択である。けれど、犠牲を生んででも得なければならない現実でもあった。  同時にそれは、はやての成長を意味する。例え新しい選択肢が残酷なものだったとしても、それも考えなければならないということだ。  真楽は穏やかな笑い声を出す。  人は変われるんだと改めて実感し、はやてという少年の成長を心から喜んだ。   『──カッカッカッ。孫の成長を間近で見れて恨め……羨ましい限りじゃて。が、しかし!』  本音がただ漏れなぬらりひょんは真楽を指差す。 「人を指差すんやない! ってか、何やねん!?」  真楽はその指を払った。 『お前さん、気づいとらんようじゃから謂っておくが……変わったのは孫だけではないぞい? 真楽、お前もじゃわい』 「……はあ? 俺がぁ!?」  信じられない、あり得ないと、笑いながら否定をする。 『……その目じゃよ』  ぬらりひょんの一言が真楽の肩をピクリと動かした。
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