今日の京都はぬらりひょんの手のひらで

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 真楽はドスを利かせた声で「ああ!?」と、不良顔負けな殺意を顕にする。 『……なぜ、そんなに喧嘩腰なんじゃ? ……まあよい』  ぬらりひょんからはため息混じりの呆れ顔を送られた。それでも真楽は威嚇の姿勢を崩さず、唾を吐く。  ぬらりひょんはそんな真楽に呆れつつも、言い出した言葉を繋げた。 『ワシは、お前が緋の目を持つという事は初めて知ったんじゃ。当然じゃわい。今までそんな話すらせなんだからな』  ぬらりひょんは自身の正体とゆきみのことを黙っており、真楽は呪われた色の目を誰にも謂わずにいた。けれど今日、それらは互いの秘密として共有できるぐらいには語っている。   『じゃが、それはなぜ? なぜ、お互いが秘密を打ち明けようと思ったんじゃ?』 「…………」  ぬらりひょんの低い声は夜風に溶けていった。肌をつつくような感覚の風は雪と絡み合いながら庭園の地へと消えていく。  真楽は雪を目で追い、観念したかのように大きく息を吐いた。 「……わからへん。せやけど、打ち明けてもええんちゃうか? って、思ってしまったんや」  大切な秘密を簡単に口にしたことへの疑問は真楽の首を傾げさせる。首の後ろを搔き、本気で悩んだ。  ──この爺さんは信用できへんはずやねん。せやけど、何で俺は一番大事な秘密を、あないに簡単に話してしもうたんやろ?    ぬらりひょんを視れば、老人は(いや)らしい笑みを浮かべていた。  真楽は余裕のない舌打ちをする。 『──簡単な事じゃ。お前は変わろうとしておるんじゃよ。立ち止まっていた時間が動き出したんじゃ』  呪いを受けてしまい諦めた。呪いのことをなかったものとして……無理やり忘れようとして、のらりくらりと日々を過ごしていた。それがはやてと出逢う前の真楽の姿である。 『そんな、何も変えようとしない……前にすら進めなかった真楽が、自ら選択した結果じゃよ』  誰にも謂えなかった緋目は、心のどこかで真楽を闇へと閉じこめていた。たった一人で抱えこみ、呪いから背き、なあなあにしていた。  けれどそれは、はやてか京都へと訪れた刻に終わりを告げる。どうでもいいと思って適当にやっていた呪われた体なのに、なぜか背けてはいけないと思えるようになっていた。 「八条通に呪われたあやかしがおったんは知ってたんや。まあ、絡新婦やっちゅー事までは知らへんかったけど」  陰陽道に(たずさ)わっていたとしても、どうせ何もできやしない。そう決めこんでいた。
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