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 列車の座席で、軍から支給された厚めの手帳取り出し、ペンで書きつける。 「今日から僕はこの手帳に手記を書いていくことにする。これから僕が何を見て何を体験するのか。あらゆることを正直に書いていこうと思う。後から誰かに見せるのか、誰かが読むのかはわからないが、ともかくこの気持ちを……なにかせずにはいられないんだ」  口にしながら拙い文章を連ねていく。  やがて列車は赤道直下の島国にたどり着いた。  そこはこの世界から夏だけを切り取ったような熱帯の土地で、目の前の青空には常夏に不似合いな高い高い塔がそびえ立っている。  塔は地上と衛星軌道を結ぶ宇宙まで伸びたエレベーターだった。                   ※                         今日から僕はこの手帳に手記を書いていくことにする。  これから僕が何を見て何を体験するのか。  あらゆることを正直に書いていこうと思う。  後から誰かに見せるのか、誰かが読むのかはわからないが、ともかくこの気持ちを留めておきたいと思う。  エレベーターはあっさりと僕を宇宙にまで運んでくれた。  地球軌道上に作られて久しいステーションに一歩足を踏み入れると、多種多様な人々で溢れかえっていた。地上の熱気をそのまま持ってきたかのようで、案外宇宙も寒くないぞ、と思っていると。 「新兵! 名前と出身地と使用言語を言え!」  地球標準語の英語で話しかけられた。  見るといかにも厳格そうな軍人が立っていた。  エントランスでざわついていた人々は、列を作って軍人たちの前に並び、一人ずつ聞かれたことにこたえていく。  僕は少し緊張しながら順番を待ち、エジプト出身の黒人青年の次に、やっと僕の番が来た。 「マーク・ソーヤー、南アフリカ共和国出身、英語、アフリカーンス語を使います」 「よし! 今日から貴様は我が統合地球群宇宙戦隊の一員だ。地上の国や人種の壁を越え、人類と故郷のために戦え!」 「はい!」  こうして僕は地球とその周辺の星々に住む人類のための戦うこととなった。  小さな窓からはステーション外の光景が見えた。  それは想像したよりもずっと暗く、僕や僕の背後の地球をすべて飲み込んでしまうように見えた。  敵はこの宇宙の彼方からやってくる。  2か月の訓練後、僕は火星衛星上の戦線に配属されることとなった。  そこは外宇宙から来た侵略者達との戦いの最前線である。 「マーク・ソーヤー軍曹、只今着任いたしました」 「ん、ああそうか。……よろしくお願いします」  上官は女性士官だった。  小柄で華奢な体、短めに切った髪は本人の意に反して動作のたびにふわふわと動いてしまう。彼女は僕の報告よりも跳ねようとする横髪を撫でつけるほうに意識を割かれていた。  戦場には似つかわしくない、と僕は思っていた。そんな僕の表情を読み取ったのか、彼女は少しはにかんで、改めて自己紹介をしてくれた。そうした様子もまた、似つかわしくない、と思った。 「ソーヤーくん、だったね。私は部隊長のシュリ。朱の里という字を書くんだが、わかるかい? 漢字というやつだよ」 「はあその……いえ、自分は詳しくありませんもので」 「そうかい? とにかく私の部隊のようこそ! 任務は主に植民都市に入り込んだエイリアンの捜索・討伐になるが、ここは最前線だ。なにかと危険も多い。あとで他の仲間にも紹介するけど、基本は部隊みんなで協力してやっていくこと。いいね?」 「はい! よろしくお願いします」  シュリはとてもフレンドリーな上官だった。部隊の仲間たちも同様で、大柄でおおらかな性格のボブ、いつもぺちゃくちゃと喋り続けているスニーキー、無口で目つきの鋭いジャンは一見強面だけど話してみるとダジャレ好きなおやじだった。ボソッとダジャレを混ぜてくる感じがたまらない。  ここならうまくやれそうだ、そう僕は思った。  
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