類稀なる青の果てに

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 その瞬間、ぷっちーんと頭の中の何かが焼き切れた音がした。  私の首元にあるその華奢で柔なあおの手首を掴んで引き離した。  反撃されるとは思いもしなかったのだろう。 「あ、れ?」  戸惑ったようにこちらを見ている彼の背は随分と小さい。  私が本来の力を出すだけで彼を行動不能にすることは可能だ。  とても簡単なことである。 「ねぇ、紅葉。痛いよ」  私は眉を顰めるあおを無視して、そのまま彼の手首をへし折った。 「ゔ、ぁぁぁ、ったぁ。ど、うして」  甲高いあおの悲鳴が花火の音と共に空高く登っていく。 「あおがいけないんだよ? 私はあおのために死ねるほど大好きなのに。愛しているのに。なのに、ストーカーだなんて言うから。私の気持ちを台無しにするから。あおは私のことを大好きでいなきゃいけないのよ。私の気持ちを受け入れなきゃいけないのよ。それが出来ないなら、あおはあおじゃないわ。そうでしょう?」  泣きたいのは私の方だった。  それなのに、どうしてこんなにも苦しそうな顔をしているのかしら、あおは。 「違うよ。君の方だよ。君の方が僕のことを愛していないんじゃないかぁぁぁぁぁあ。痛いよぅぅ。う、ぅ……」  蹲ったあおが変なことを言っている。 「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い‼‼」  私はあおが持ってきていたシャベルを手にした。  彼は重たそうに持ち上げていたが、私にはとても軽く感じる。 「ねぇ、あおは私のために死ねる?」  シャベルを振り上げて、彼に尋ねた。  彼の可憐な返事が耳に届く前に、私はあおの脳天目掛けてそれを振り下ろした。  あおの言葉を聞くのが怖かったのだ。  私を愛していない「あお」なんてこの世界に必要なかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加