お前さえいれば、君さえいれば

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 おれが悲観論者(ペシミスト)ぶったようにこの国の未来を憂いていると、親友は信じられないことを宣い出した。 「お前に嫁に貰って貰うしかねぇかもな」 おれは困惑した。昨今の事情を考えると、出来ない話ではない。法的効力こそないが、パートナーシップ制度によって夫夫(ふうふ)として認められることは可能なはずだ。 だが、婚姻の正しい形は男女であると「この世界」の概念として定められている。その概念に逆らい親友(あいつ)を嫁にすることは出来ない。 これを選ぶのは、今はまだまだ茨の道を往くようなものだ。親友(あいつ)もこういった冗談を言うようになったか。確かに付き合いの年数だけなら、そこいらの熟年夫婦並だ。辛いことも、悲しいことも、楽しいことも、おれ達は全てを分かち合ってきた。 おれは親友(あいつ)のことならば、何でも知っている。食べ物や衣服の好みは勿論、身体能力や成績はいうまでもがな、お互いの黒子(ホクロ)の数や怪我をして縫った古い傷跡の由縁、女の趣味や性的嗜好も完璧に把握している。 下手をすれば、血と肉と骨を分け与えた親以上によく知っているかもしれない。 それはお互いに同じだ。そこいらの双子以上に二人で一つの一蓮托生の関係だとお互いに自負するぐらいだ。 「そうかもなぁ。いい歳して結婚してなかったら、おれがお前を嫁に貰ってやるよ。ま、お互いにいい歳になれば結婚出来ているだろうから心配はないだろうけどな」 「そうだよな。ちゃんと仕事してれば、なんとか結婚出来てるだろ。もしも、お互いに結婚出来てなかったら俺のこと嫁に貰ってくれな?」 「おうおう、お前の作る豚汁は最高だからな。毎朝飲ませてくれな?」 親友(あいつ)の趣味(ナード的なものを除けば)は料理だ。特にダシに頼らずに、豚肉と野菜の旨味を最大限引き出して作る豚汁は最高である。 「ああ、約束したぞ? 忘れんなよ?」 「おう、おれは出来ない約束はしない主義だ。これはお前がよく知ってるだろ」
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