神宮寺繭子より、ご報告

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神宮寺繭子より、ご報告

薄暮、眦に涙を誂えて貴方が目覚めます。 花を纏い、小説の切れ端を食べ、気怠さに揺蕩うその姿が、いったい幾つの色を手にしているのか、私には図り兼ねます。 私、酒や煙草、男や薬、政治にだって手を出してはおりませんが、貴方に関しては驚くほど素直になります。 例えば、ハル。 何処を舐めても甘いと感じることが出来るよう、剃刀で、小さな陰鬱如きは全て消し去りました。 その細い指先の隙間を隈無く独占が出来るよう、貴方好みの黒い艶髪を育てさせて頂きました。 そういえば、ヴィヨンの妻を読みました。 そういえば、恥じらいの戌に堕ちました。 現し世の男どもは退屈で、私の欠伸一つで鳴くものだから、まさしく余裕無し、呆れて吹いて、気づけば泡になっておりました。 ほら、奴ら、肌を一度撫でただけで全てを手にした気になって、哀れに、粗悪な唾液に明日を染まることを魅力だと勘違いしている連中ですから。 貴方の正体を知ったら、頭が矜羯羅がってしまうことでしょう。 ただ私、馬鹿者である自覚しております。 指折り数え、夜を越える、貴方の琥珀な生き方や、貴方の紅付け指に踊らされ、常に胸騒ぎ、愛慕の狂人であります。 「ともに死のう」と微笑む貴方の頸動脈に、数多の鋭利な切っ先を突き立てて、訝しむ、承認欲の強い女でございます。 それでも愛すと詠う貴方に、私は永久を捧げようと想うのです。
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